14 夕顔との出会い。
物語は進んで第四帖の「夕顔」です。光源氏は17歳の夏を迎えています。ある日、尼になっている病気の乳母を見舞ったおり、隣の家に咲いている白い花に目をとめます。護衛の随身に花の名をたずねると「夕顔」と答える。源氏は一房折ってくるように命じます。随身が花を採っていると、家の女童が出てきて「この上に花を載せて差し上げてください」と言って白い扇を差し出す。扇には風流な筆跡で「心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花」という歌が書き流してあります。そんなところから源氏は女に興味をもつようになります。
一方、六条の御息所との逢瀬はつづいています。御息所は魅力的な女性で教養も豊かですが、七つ年上ということもあって、気楽に付き合える相手ではありません。若い恋人にたいする執着も強く、源氏のほうはちょっと持て余している感じです。歌を取り交わした女(夕顔)のことが気になるので、乳母の息子である腹心の惟光に探らせますが、女の素性はわかりません。源氏のほうでも名前や身分を伏せて忍んでいく、といったかたちで付き合いがはじまります。女は初々しく無邪気で、歳も自分に近いらしい(このとき夕顔は19歳)。好ましく思った源氏はしだいに耽溺していきます。
8月15日、中秋の満月の夜、夕顔のところで一夜を過ごした源氏は、明け方になって荒れた院に女を連れ出します。もっと気兼ねのないところで二人だけの逢瀬を楽しもうというわけです。さすがに随行の家来が心配して、お世話をする人を呼んだほうがいいのではないかと申し出ると、源氏は「ことさらに人来まじき隠れ処求めたるなり。さらに心より外に漏らすな」と口止めをします。「御粥など急ぎまゐらせたれど、取りつぐ御まかなひうちあはず」というくだりが生々しい。食も忘れて愛欲にふける17歳というところでしょうか。
夜が明けて、源氏の台詞。
「けうとくもなりにけるところかな、さりとも、鬼なども我をば見ゆるしてん」
人けがなくて気味の悪いところだなあ。でもまあ、鬼などが住んでいたとしても、きっとわたしのことは見逃してくれるだろう。いったい何を根拠に? 強がりのようにも取れますね。さりげなく「鬼」という言葉を使っているところが不気味です。このあと夕顔は源氏がふと漏らした言葉のとおり「鬼」に取り殺されてしまいます。